チェンジリング

公式サイト⇒http://www.changeling.jp/
感想としては、「クリント・イーストウッド監督らしいというより、監督にしか撮れない徹底的に客観視された凄い映画」でした。

1928年のロサンゼルスを舞台にして、突然いなくなった息子。5ヶ月後、無事に警察に保護され戻ってくるが、母親のクリスティン(アンジェリーナ・ジョリー)は実の子ではない別のよく似た子である事にすぐ気づく。クリスティンは自分の息子ではないと主張するが、警察は取り合わず、逆にクリスティンを精神病院に送り込んでしまう。
チェンジリングという言葉は、取り替え子の意味で、ヨーロッパの伝承において、妖精が人間の子供をさらい、その代わりにおいていく妖精の子の事です。なんだかとても象徴的な題名だと感じましたね。

息子はいつ消えてしまったのか、よく似た子は何が目的なのか、そんなミステリータッチで始まる映画なのですが、えっこれどうするんだ。どう結末をつけていくんだとドキドキしながら、観ました。そしてこれが、実話を元にしているというから、なお恐ろしかったです。

そして、物語の中心となっていくのは、推理や陰謀、頭脳ではなく、ただただひたすら息子を探し求める母親の愛情であり強さでした。もちろん、クリスティンは一市民であり権力もコネもなにもない、一見すると息子を捜すように訴えるだけという受け身ととれるような状況になるのですが、そこにアンジーの芯がありぶれない強さをもちながらも、決して妄信的や感情的にもならないという説得力のある抑えた演技によって、警察という巨大な権力に立ち向かう女性を表現します。

そして、圧巻は、それらの心理描写を巧みなカメラワークで切り取るクリント・イーストウッド監督の力量でしょう。特に凄いなと感じた点については。この映画は、物語的に言えば、はっきりと正義と悪が分かれる話なんです。だから悪を悪意を持った悪人とする演出をしようとすれば、いくらでもできると思うんですね。(例えば、「越後屋、そちも悪よの〜」なんて風に)そして物語としては、そちらの方が盛り上がるのだとは思うんですけど、最後に正義は勝つみたいなね。
そうせずに、悪の側にあるのは、当然悪意もあるのでしょうけど、それより大きいのは、功名心や保身、怠慢、体面といった当事者からすれば、それなりに合理的な行動だった事が示されるのです。前作の「硫黄島の手紙」でも太平洋戦争を、単純にアメリカは正義で日本は悪としなかった演出をした監督ですが。その客観的な視点を、このチェンジリングにおいても感じました。

また、ラスト付近のクリスティンの決断。この決断自体は、ネタバレになるので書けませんが。その決断は、彼女を幸せにするのか、それとも不幸にするのか分からないのだけども、監督自身、否定も肯定もしていない所も非常に好感が持てました。

ピーンと張りつめた静謐な湖のような静かな余韻を残すよい映画です。上映時間は142分と長いですが見て損はありません。