転々

転々 (新潮文庫)

転々 (新潮文庫)

映画にもなった転々の原作です。えーと、映画の感想は書いたっけな?あった、これだ。転々を観たよ - 電脳世界のおもちゃ箱
詳しい感想は後で書くと言いながら、書いてないなぁ。アハハ、笑ってごまかそう。
映画と原作の小説では、結構異なってて。共通する部分は、80数万の借金を背負った主人公の文哉は、返済に首が回らなくなっていた所、借金取りの福原から東京散歩につきあえば、100万円やると言われ、井の頭公園から霞ヶ関まで男2人で東京を散策するという部分。
映画は、それにゆるーい笑いを加味して、後半には疑似家族をのどかにそして切なく演じるという話でしたが。原作は、ストリッパーの美鈴との恋愛が話の中心となってました。映画は本当に淡々と東京を歩いてて、いろんな人に出会うという感じでしたが、原作は2人の思い出の場所を巡る事によって、文哉や福原の背景が明らかになっていくというミステリー風味でもありました。
実の母親は夫と息子を捨てて逃げ、実の父親にも捨てられ、養父は窃盗で服役中、1人目の養母には子供の頃虐待され、2人目の養母は、行方不明という、絵に描いたような不幸な生い立ちの文哉は、世の中、いや自分を含めて冷めた目でみていた。そしてまた、その冷めた部分は小説全体において、家族、特に両親と子供の関係において独特の世界観が作られてました。「世の中には自分では子供を愛しているつもりでも、無意識のレベルでは、ちっとも愛していない。そんな親がたくさんいると思いますよ。」「心優しい少年少女なんて、単なる幻想です。」「世の中には、子供にとって諸悪の根源みたいな父親や母親がいくらでもいるのに、そう言う所は見ないで、判で押したように、本当の父親みたいとか、母親みたいというのは変ですよ。」このような台詞に、親子といっても所詮は他人じゃないかという考えが興味深かったですね。
旅の途中では、奇妙な人物が数多く登場します。母親の作った料理しか食べれない青年、ゴミ捨て場の監視を執拗に続ける老人、実の両親を殺害し自殺した青年、母親の不倫現場を発見した少年、売春をする母娘、コスプレをする幼なじみ、弱気な社会部の記者、偽装夫婦を演じた女など様々な人々が生息するのに、日本では東京という街が一番似合うのかもしれません。そんな閑静な住宅街もあれば、猥雑な繁華街もある大都会東京を裏道を歩いた気になった小説でした。