フラガール

感想としては、「ど真ん中の直球であっても、時速150km以上の剛速球であれば、圧倒されてしまうな」という気持ちになりました。
舞台は、昭和40年、福島県いわき市の炭鉱町。黒いダイヤとも呼ばれていた石炭は、石油へと徐々にその座を明け渡すようになっており。経営の悪化した炭坑会社は、温泉を利用した常磐ハワイアンセンターの設立だった。

なんと言っても、圧巻だったのが、紀美子役の蒼井優さんと平山まどか役の松雪泰子さんのソロのダンスでした。というより、話としては、この2人の成長物語とも言えるかな。通常、こういう成長物語ってのは、主人公側の未熟な人間が、悪戦苦闘してライバルに勝ったり、成功をつかんだりするんですが。フラガールの面白い所は、教える側も最初は未熟なんですね。なんてったって、教える側の平山先生は、借金があったから片田舎までダンスを教えに来たのだし、しかもどうせど素人なんてと高をくくって真剣に教える気もなかったのですから。
そんな2人がぶつかりながら、相手の事情を察して、フラダンスを成功させるために、進んでいく流れが良かったです。

基本的に、ストーリー展開はベタです。ベタベタと言っても良いかもしれませんし、群像劇としては、脇役達のキャラクターがあまりたっていないという(初子役の池津祥子さんは、子持ちという属性しか生かされてなかったように思います。)欠点も持っているように思います。
ですが、丁寧な伏線と時代の流れの中での煮詰まり感という背骨がはっきりしていたため、お涙頂戴的な、あざとさを感じることなく鑑賞できました。
それを強く感じたのは、早苗役の徳永えりさんが、ダンスを弟や妹の前で踊っていたら、父親に殴られたシークエンスでした。ここでは、炭坑の経営の悪化という現状に対し、それでも維持しようとする保守的な人、このままではいけないと現状を打破しようとする革新的な人、そして時代の流れから切り捨てられてしまった人などの、意見・感情の対立やそのどうしようもないやるせなさが浮き彫りにされたシーンだと思います。
その後の紀美子が早苗の乗るトラックを追いかけるシーンでは思わず泣いてしまいましたよ。