株式投資ことはじめ 第一回 きっかけ

そうあれは、2003年の夏の頃だった思うが、僕は焦っていた。何に焦っていたかというと、特に理由はなかったのだが。今から思うと、眼前に迫ってきた三十路という年齢の壁や、結婚や転職という人生の転機を迎えて行く友人達に、訳も分からぬ焦燥感を感じていた。社会人になって数年、仕事にも慣れてきて、ある程度会社というのが、どういうものか分かってきた頃だった。仕事から帰ってきては、プログラミング言語を自習し、プライベートにおいても何にでも新しい事に手を出していた時期だと思う。乗馬を始めたのも、この頃だし、何を思ったのかギターを弾けるようにもなろうとしていた。それと同時に前から興味のあった投資も、初めてみっかと思い立ったのだ。それは留まってちゃ駄目だ、何か何か動いてないと、と声にならない心の叫びに突き動かされていたような気もする。
結局、乗馬は6ヶ月で、忙しくて通えないという事で、乗馬クラブを辞める事になり、ギターはろくに上達しないまま、今では、部屋のオブジェである。CやAmといったコードが、どんなだったか思い出せもしない。それらと比べると、楽しいとは思わないまでも3年間投資を続けているという事は、株式投資に少しは向いていたのかもしれない。

そんな背景の中、具体的に、投資を意識したのは、ビッグコミックスペリオールの巻末で連載されていた「今こそ儲かる株式講座」というファイナンシャルプランナーの新倉由貴さんのコラムだった記憶がある。そこでは、目次と共に、半ページのコラムが載っていました。大体、日本株の状況と、おすすめの一銘柄を挙げるという、定番といえば定番の記事構成でした。ですが、新倉さんの平易で分かりやすい語り口を読んでいくと、ほうほうなるほど、そういう原因で株価が動いていくのか〜、へぇ〜面白いなと思わせるようものでした。そこで、普段は見ない預金通帳を確かめると、新車のローンを去年に払い終え、順調に溜まっていってるのが、見てとれました。これくらいあれば、投資ができるかと思ったのです。
勿論、投資を初めるかどうかは悩みました。「面白そうだし、儲かるかもしれんし、ネット証券とやらは、手数料が安くなったらしいし、独身の今なら損しても傷は浅いし、老後の勉強になるかもしれんし。」という心と、「そんな簡単に儲かる訳ねぇべ。だいたい競馬、パチンコ、ギャンブルする奴ら見てみろ、負ける奴は負けた金やそれまでに注いだ時間が勿体なくて、それを取り戻そうとして、より一層負けていってるんだぞ。お前は自分がそうならないとでも思っているのか。救いようのない楽観主義者だな。」という心がぶつかり合って、絶えず脳内会議をしていました。
悩みに悩んだすえ出した結論は、とりあえずは、やってみなくちゃ分からんだろう。ただし、元金から100万円マイナスになったら必ず撤退しようと決意したのでした。その時、テレビでは、阪神が24年振りの優勝争いをしていました。